携帯ショップで一番つらい仕事は「死亡解約」です

こんにちは。現役接客業ブロガーの貫洞(かんどう)です。

わたしは今も携帯ショップで販売・接客をしています。よく、接客業で一番つらい仕事は「クレーム対応」と言われますが、わたしにとっては、もっとつらい仕事があります。今日はその話を書きます。

では、わたしの体験談に少々お付き合いください。

もう二度と鳴らなくなる携帯電話

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「主人が亡くなったので、解約をお願いします」

いつものように携帯ショップの店頭で、来店されたお客様のご用件をうかがっていた時だった。サラサラと流れる茶髪の若い女性が、4歳くらいの女の子を連れながら、そう言った。一瞬でさまざまな想像がわきあがった。このお客様のご主人は、とても若くして命を落とされたのだ…と。まだ若い妻と4歳になる女の子を残していくのは、とてもつらかっただろう…と。

「あ…かしこまりました」

わたしは小さな声で答えた。茶髪の若いお客様は、

「お姉さんそんな顔しないで。書類、持ってきているから大丈夫」

わたしはそんなに悲しそうな顔になっていただろうか。わたしには年の離れた病気がちの夫がおり、先立たれる不安にいつも苦しめられている。だから、こういうシチュエーションが正直つらいのだ。

思わず手を口元に持ってきてしまう。感情をおさえるときのわたしの小さな癖だ。カウンターは空いていたので、そのままお客様をご案内した。

死亡診断書。

見たくないが、手続き上確認しなければならない。お客様はおしゃれで使い込まれたバッグから、免許証と死亡診断書を取り出し、最後に青いストラップの付いた携帯電話をコトリとカウンターに置いた。

「確かに、確認いたしました」

そう伝えて、手続きを進める。手続き自体は5分もあれば終わるものだ。たった5分で、この携帯はもう二度と鳴らなくなる。電波を受けることもなくなる。そうやって、一人の人がこの世に生きていた証拠がひとつ、消えていく。わたしは自分がしている手続きの重さを感じていた。かける言葉は短くシンプルにした。

「では、月々の請求だけ、止めさせていただきますね」

本来は「本日を持って解約させていただきます」「只今をもちまして、電波が使えなくなります」などと言わなくてはならない。でも、今回だけはマニュアルを破らせてもらおうと思った。お客様はこくりと頷き、女の子の頭を撫でていた。青いストラップの携帯電話は、電波を受信しなくなった。

人の死に向き合うのは想像以上に重い

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解約の書類にサインをいただき、青いストラップの電話機をお客様に返す。

「あれっ? 解約したら電話機も返すんじゃないですか?」

お客様はきょとんとして、青いストラップの携帯電話を手に取った。携帯を解約したら、電話機も携帯ショップに返すものだと思っているお客様は案外多い。このお客様もそう思っていた。確かにマニュアルでは、リサイクルのため、電話機を回収してよいかたずねて、なるべく回収している。実際問題、古い携帯を持って帰っても仕方ないので、回収に応じてくれるお客様は多い。しかし、この携帯だけはお客様にお返ししたいと思った。

「解約しても、電話機はお客様のものですよ」

そう伝えると、お客様は4歳くらいの女の子に携帯電話を握らせて、

「みーちゃん、よかったねえ! パパの携帯、みーちゃん持っててくれる? お姉さん、いろいろありがとー!」

そう言ってお客様は立ち上がった。帰り際に、女の子がバイバイと手を振ってくれた。にっこり、ではなくきゅっと結ばれた顔で。わたしは手を振り返した。お客様の姿が見えなくなるまで見送った。わたしの心には、様々な感情が残り、正直に言って「しんどい」と思った。クレーム対応は、実はある程度自分の中でマニュアル的にこなせるようになっていたが、人の生死に少しでも関わることは、とてもきついことなんだ…と実感した。

-実話ですが、お客様の年齢、見た目、お子様の名前などはすべてフィクション・仮名です。また、2年以上前のことです。

接客業の醍醐味と苦しみ

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携帯ショップの仕事は、さまざまな人間ドラマと出会います。苗字や住所を変更したい…というお客様も多くご来店されます。目の前で夫婦喧嘩が始まることもあります。守秘義務があるので絶対に他言できませんが、お忍びで有名人も来ます。

わたしたちは、ワケアリのお客様も有名人も、どんなときでも沈着冷静に、かつ余計なトラブルが起こらないように気を配って接客します。(これは、ある程度仕事に慣れたらできることです)

しかし最近になって思うのです。この「一歩突っ込んで人と接する」ことこそが接客業であり、完全な裏方のように見えますが、実は結構重要な仕事をしているよね…と。そしてわたし自身、苦しいと思うこともあるけれど、それも含めて接客業の醍醐味だと思っています。苦しいことでも楽しいことでも、お客様の人生の大切な時間に立ち会わせていただいているのです。店員としてできる限り、お客様の気持ちに寄り添いたい。

「行くのが嫌だったけど、行ってよかった!」
「面倒だったけど、新しい携帯を買えてよかった!」

どんな種類でもいい、「行ってよかった」と思ってもらえる接客がしたいのです。

これから接客業を始める方は、たくさんの人間ドラマに出会うと思います。苦いドラマもあれば、甘いドラマもあります。すべて経験して、人の気持ちがわかるスタッフになれたらいいですよね。

悲しくなることも、つらいこともあるけれど、何もない毎日を過ごすより、山あり谷ありの接客業をしている毎日がずっと好きです。大きな夢や目標も大切ですが、毎日の仕事をやり終えた小さな満足感が、わたしは大好きです。いろんなことがありますが、毎日小さな満足を積み重ねていれば、道は開けると信じています。お仕事は大変ですが、一緒に頑張っていきましょうね。

筆者:貫洞沙織(かんどう・さおり)
ケイ・ソリューションズ株式会社 代表
接客業歴15年以上
ブログ:接客業はつらいよ! かんどーの毎日更新日記! 「接客・店舗運営」

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